※この記事は2007年9月7日に書かれたものです。
開催されるたびに「何かがある!」と言われるAppleのイベントですが、今回はiPhoneに続く新製品、「iPod touch」が発表されました。
iPhoneから電話機能を抜いて無線LAN対応にしたという感じですね。
ざっとこれが発表されてからの感想を巡回してみたいのですが、歓迎の声が多い一方、「容量が8Gと16Gじゃ少なすぎる」という声もわりと多く見られました。実は私も同じ意見です。ですので、160GBに増えているiPodのほうに魅力を感じていたりします(値下がりしているし)
そこで思ったのですが、そもそも何でiPodにはShuffleの512MBから、160GBまで容量の差が出来ているのか、ということです。
これは言うまでもなく、個人個人の欲求がそこまでの幅広さがあるためですが、じゃあ何故512MBを望む人から160MBを望む人まで幅広くいるのでしょうか。これはiPodの値段や持っているCDの枚数以外にも、原因があるように思えたのです。それが、個人の「音楽キャパシティ」というものの存在。
以前から、「タイアップ効果の低下とJ-POP、そしてアニソン」などで「CDは何故売れなくなったか」というのを断片的に書いてきました。
しかし、これは原因は一つではなくて、かなり多くの要因が積み重なったり複雑に絡み合ったりして出来たものだと思うので「これだ!」というのはありません。しかし、そのうちの一つとして、「消費者の音楽キャパシティが限界に達している」という要因があると思うのですよ。
音楽CDは映画DVDの楽しみ方と大きく違うところがあります。それは一つの商品に対するリピート性。つまり映画というものは1回見たらよほどのお気に入りでなければ複数回見ることはありません。だいたいセルで買っても見たら棚にGOですね。しかし音楽CDの場合、本当に気に入った曲ならそれこそ何回も聞くでしょう。それこそ一生ものもありますし。というかそもそも1回しか聴かないような音楽ならCD自体買わないでしょうし。まあ例外として「聴かないと話題についていけないから仕方なく1回聴く」なんてのはあるでしょうが。
さらに音楽の場合はその歌い手に対する依存度が非常に高いと思われます。つまりお気に入りのアーティストを見つけたら、その人のCDを買い続けるという現象ですね。これは映画でいえば俳優とか映画監督に対するものに当たりますが、それよりもはるかに依存度は高いでしょう。(まあ映画監督や俳優が同じでも、がらっとダメ映画になることはとてもたくさんありますしね。特に続編とか)
さて、ここでいきなり現在のCDの売り上げの話。ご存じの通り、現在のCDは売り上げが最盛期に比べて1/5以下6割程度となっています。
※追記:上の部分、ツッコミが入りました。1/5というのは「最盛期のオリコン1位曲の売り上げの数週間の平均値と、最近のオリコン1位曲の売り上げの平均値を比較した結果、おおよそ1/5~1/6になっていた」というとことから導き出した数字です。これは別のエントリーで書こうとしたことから導いてきた計算だったのですが、ここでそのまま流用して使うのは不適切でした(トップセールスの話でなはない、全体としての話なので)。ということで、「6割程度」に訂正させていただきます。
しかし売り上げが下がってきたというものの、個人の音楽を聴く機会が減っているとはあまり思えません。じゃあその売り上げ分は何を聴いているのか。
はい、ここで前をふまえて考えると、聴いているのはその昔から聴いている音楽、もしくはそのアーティストの音楽ではないでしょうか。となると、既存のアーティストでさえCDが売れなくなったのは過去の自分の音楽で満足されているから、そして新人のほとんどが売れないのは、それら既出のアーティストまで手を伸ばす余地がないからではないでしょうか。
ここで先述の「音楽キャパシティ」。すなわちこれは、人によって必要とする音楽の量というのが違うのと思うのですね。それこそ全ジャンルの曲を聴いたり、最新曲をもれなくチェックしないと気が済まないという人はいるでしょう。そしてそれらの曲をいつまでもとっておきたいと思ったら、HDDの容量がいくらあっても足りません。
反面、お気に入りの音楽は数曲で、それのリピートだけでいいなんて人もいると思います。そこまでとは言わなくても、iPodに入れておくのはお気に入りのアーティストのシングル曲だけでいいとか。そういう人は、数GBでも足りるでしょう。
しかし、この音楽キャパシティが狭くても別にそれは恥でも何でもないと思います。ただのライフスタイルの違いなのですから。
ただ、売り手にはそうではなく、ユーザーのキャパシティがなくなれば、それだけ新曲の入る余地が無くなります。つまり今まで発売された曲で満足してしまって、新曲を必要としない状態。これが今のCDが売れなくなった原因のひとつだと思うのです。
さらに音楽には技術の進歩による変化はほとんど見られません……というと勘違いされそうですが、音楽には流行という概念はあっても「古い」って概念はないと思うのですね。たとえばワールドミュージックやサルサでさえ、現在もちゃんと人気があるわけですし。
ちなみにこれはゲーム音楽にも言えることで、古くて音源数が少ないものが、今に比べて劣ると言うことは全く言えないと思います。
まあそうなると、捨てられないレコードが部屋に蓄積されてゆくけど置き場が無くなるように、そこに新しいアーティストの入る余地がほとんどなくなるのではないかと。更に言えば、現状購買対象になっているアーティストでさえ、その過去の作品に新しい曲の居場所を阻害されている可能性もあります。
つまり、購買層が全体的に「もうお気に入りのアーティストだけでいいや」と、キャパシティをいっぱいにしてしまっているのが現状ではないでしょうか。
そんなわけで、CDが売れなくなるという現象は、なるべくしてなったと言えるとも思います。まあもちろん前述したようにこれだけが原因ではなくて、あらゆる要素がからみあっているのですけどね。
それを打開する方法のひとつとしては、音楽の傾向を変えてしまう、つまり80年代の歌謡曲から90年代に隆盛した新しいジャンルへの変遷っていうのがありますが、それがほとんど出来ていないってのもあるでしょうし。
ただ、このブログ的に扱うべき「ゲームミュージック」、それに「アニメソング」は音楽キャパシティの範囲内とはまた別のところにあるように思えます。つまり、たとえ現状のストック音楽に満足していても、音楽に対する興味をシャットアウトすることは希だと思うのですね。それも前から言っていますが、ゲーム音楽やアニソンは、普通のJ-POPとは異なり、作品への付随性が高いと思うのです。となると、その作品といっしょに入ってくる分、それらのキャパシティより入り込みやすいのではないかと。J-POPがタイアップを盛んにしたがる理由も全くおなじところにあるのでしょうけどね。
ま、音楽なんてものは好きなものを好きなときに聴くのが一番ですよってことで。