現代において、ゲームオリジナルではない他の媒体のコンテンツ(マンガやアニメ、映画やテレビ番組等)を利用するゲーム(○○のゲーム化)というものは、珍しいものではありません。それこそファミコン初期のソフトにも『ポパイ』『グーニーズ』などそういったものが含まれてました。
その中にはただ版権をもらってきてそれをゲーム化するというだけではなく、その元のコンテンツと連動する、いわゆる「タイアップ」というものが存在します。例えばとある歌い手の新曲をそのゲーム内の主題歌として利用したり、とある商品の発売にあわせてそれをゲーム内に登場させたりというものですね。また逆にゲームを他の媒体(マンガなど)に登場させるという方法もあります(ある意味版権をとってきてそれをゲーム化するだけで、元コンテンツにはそれほど影響しないものもタイアップと言えるかもしれませんが、ここではお互いに影響をおよぼすことを意図するものをそう呼ぶことにします)。
広く行われているタイアップ
このゲームのタイアップの歴史は古く、『ドラゴンクエストII』では牧野アンナの『Love Song 探して』がパスワード入力画面で使われたり、町に登場してゲームのBGMを変えたりしていました。また、近年ではファイナルファンタジーシリーズにおいて主題歌がタイアップ曲として使われることも多いですね。
また、近年では「メディアミックス」というものも盛んに行われています。これはとあるひとつの作品がマンガやアニメ、ライトノベルなど多方面の媒体で展開されるわけですが、その中にゲームが含まれ、「ゲーム化」されることも多々あります。ゲームが主軸となることもあるでしょう。
これらは何故行われるのか。それはそれぞれの商品展開における相乗効果を期待してのものでしょう。すなわちゲームで使われた音楽なので、ゲームをした人がその音楽を購入するとか、逆に音楽のファンがゲームを購入するというもの。メディアミックスならとあるアニメが人気になれば、それに関連したゲームや漫画も売れるとか、ゲームが売れればその関連商品も売れるようになる、といった感じですね。
タイアップのリスク
しかし、すべてのものにメリットに対してデメリットがあるように、このタイアップなりメディアミックスに関してもデメリットが存在します。その際に考えられるデメリットについて、以下に書いてみます。
ひとつの媒体の失敗を連動する危険性
まずどの媒体でも言えますが軸となる商品が不発だった場合、その人気の相乗効果が発揮されずに恩恵を受けられず、売り上げを落としてしまうという連動的な要素があります。つまりアニメが展開されるのにそれの人気が出ないので、ゲームが売れない、またはとある音楽がゲームとタイアップしたのに、ゲームが散々だったために音楽が売れないといった感じのもの。相乗効果がゼロならまだいいほうで、極端な場合マイナスになってしまうこともあるのではないかと。前にかなり制作状況が酷いことになっていたアニメがあったけど、そのあとに発売された家庭用ゲームの売り上げにどのくらい響いたのか興味がありますね。
権利関係による制約
ゲームでタイアップするものを使う時に、それの使われ方は全くの自由というわけにはいかないでしょう。その元となるもののイメージを壊さず、且つそれなりに目立つように入れることが求められます。それをうまく生かせればいいのですが、下手をすると無理矢理入れた感じになり、ゲームのおもしろさを損なう可能性もあります。特に特定のイメージが出来ているキャラクターを使う時なんて、制約の塊になっている可能性もありますから、難しいところでしょうね。
リメイク時の権利関係がややこしくなる可能性
今、バーチャルコンソールやPSアーカイブスなどで、過去のゲームが遊べるようになっています。しかし契約でリメイク時や再配信時の許諾をとれないと、その部分だけカット、不可能ならそのゲーム自体を発売できなくなる可能性もあります。もしくは再契約すれば出来るけど、どれだけ売れるかわからない配信でそこまで金を出せないからカット、もしくは配信できないというケースもあるでしょう。
まあこれはタイアップだけではなく、他の版権を使ったもの全てに言えることなのですが。本当はバーチャルコンソールで『さんまの名探偵』とかやりたいのだけどね(余談ですが、PCエンジンの『カトちゃんケンちゃん』は、海外では架空のキャラで移植していたので、バーチャルコンソールで配信しているとのこと)。
タイアップによる時間的拘束が生まれる問題
タイアップというのは、実はひとつの制約を生まれさせます。それは「他の媒体との展開のタイミングを合わせること」。つまり、アニメとあわせてゲーム化されるのだったら、そのアニメ放映中か、もしくはDVDのリリース中に発売しなければ、商品の売れる寿命を逃してしまうことになります。また、音楽CDが先に発売されているのにそれとタイアップしたゲームの発売が遅れてしまうと、そのCDの売れる寿命を逃してしまうことにもなります。故に、タイアップの品物は全て、その発売のタイミングをあわせる必要があるわけです。実際、ゲームのサントラでもゲーム本体の発売が延期になったために、発売が延期になることというのはわりとありますね。
しかし、ゲームの開発は度々遅れることがあります。その結果、発売が延期されたりしてしまうわけですが、このようにタイアップするものがある場合、商機を逸してしまい、売れなくなる可能性が高くなります。実際延期しまくった結果、アニメの放映終了後に出て、売り上げがかなり悲しいことになるソフトもあります。
ちなみにこれはオリンピックやワールドカップとタイアップしたスポーツゲームでも言えますね。私はそういったイベントが終った後、ワゴンで異様に安い値で売っているスポーツゲームを買ったりしています。製品の出来はイベント前と変わりないのだし。
しかし、ある意味それよりまずいのが、遅れていて本来の予定日までには出せそうにないのに、無理矢理間に合わせてしまうというもの。これは本来その期間で出来るはずのないものを無理矢理その期間で作ってしまうのですから、当然無理が生じます。それにより、本来実装されるところがまるまるカットされるようなこともあるでしょう。
一番まずいのは製品の不具合、つまりバグを残してしまうこと。つまり無理矢理バグ持ちのままマスターアップしてしまうのですね。しかし多くの場合その不具合は発売してから発覚し、問題になってしまうわけです。
昔聞いたうわさ話では、とあるゲームにおいてバグだらけで、このままではハードメーカーのチェックも通らない。しかしタイアップや決算の関係上、絶対に間に合わせる必要がある。そこでそのソフトメーカー社長直々にハードメーカーと交渉し、「すべての不具合はハードメーカーに責任を問わず、ソフトメーカーが引き受ける」という条件付で発売を許可されたという話も。これの信憑性はそれなりであくまで都市伝説レベルの話ですが、タイアップはそういった制約を生み出す可能性があるというのは確かでしょう。
まとめ
このように、タイアップというものは時間的なリスクを抱えさせてしまうわけですが、こと不具合の検出が非常に大切なゲームというものにおいては、それは製品に重大な欠陥をもたらしてしまうことにもなりかねないのです。
先日、アメリカで発売された『E.T.』が結果として当時ゲーム業界のトップだったアタリを倒産させることになったという話を書きました。
その失敗の主な原因は作りすぎにありますが、このソフト自体の出来が非常に悪く、客離れを起こしたというのも一因としてあります。それは先日のエントリーでも書いたように、版権取得までに時間がかかりすぎて、ソフトの開発時間が短くなってしまったというのがあるのですよね。
日本での「アタリショック」という言葉は史実とは少し変わって、クソゲーばかりが市場に溢れてユーザーのゲーム離れを起こし、市場を縮小させるという意味で使われることがありますが、実際問題としてこういったタイアップなど開発期間を商機の都合で短くするということは、結果としてユーザーの信用を落とすようなソフトを生み出し、ユーザーをゲーム業界全体とは言いませんが、少なくともそのメーカーから離れさせる原因にはなってしまうのではないでしょうか。
タイアップはたしかに盛り上がりますし、それにより開発の機会が生まれて名作が生み出される可能性もありますから、否定は出来ません。ただしその際にはゲーム開発に対して内容的、そして時間的な無理が生じないように、さらに将来の再発売に支障を来さないか等、前もって厳密検討が必要ではないかと考えます。