以前ネットを巡回していたら、「昔はゲームソフトは金曜日発売だった。それが木曜になったのは、『ファミ通』が金曜から木曜発売になったから」という書き込みを見かけたのですが、それに対して「逆、逆!」というツッコミをしたことがあります。でももうコンシューマソフトの主な発売日が金曜から木曜メインに変わったのがPS時代ですから、もう15年以上経つのですね。というわけで、今日はその辺のあたりを備忘録的に書いてみようと思います。
金曜発売だったファミコン、スーファミ時代
最初に少し触れましたが、昔はコンシューマソフトの発売日は通例金曜日でした。ファミリーコンピュータ(ファミコン)とSG-1000が発売になった1983年7月15日も金曜日です。『ドラゴンクエスト』シリーズのように諸般の事情で曜日がずれる場合もありましたが(Ⅲは水曜、Ⅳはそれまでのシリーズで学校をずる休みして購入に並ぶ子供が報じられたせいもあるのか2月11日の祝日だった)、基本的には金曜発売というのが通例でした。
これの理由は定かではありませんが、おそらくはその後の土日という休みの日にゲームで遊ばせるために週末を狙ったというのがあると推測されます。もしかしたらそれ以前の玩具流通における習慣の影響もあったかもしれませんが、そのあたりまでは不明です。
PS時代に金曜日→木曜日発売に
その「ゲームは金曜発売」が木曜発売にシフトしたのが1990年代後半の初代プレイステーションの時代。1997年1月に『ファイナルファンタジーⅦ』を発売し、当時競っていたセガサターンとの勝負がついた雰囲気になった年半ば、1997年の7月3日のソフトより、それまでの金曜発売から木曜の発売へとシフトしました。そしてセガサターンソフトも同年9月より木曜日販売にシフト。ここで金曜発売が木曜にと変わりました。そしてそれが現在まで続いているという感じになっています。
任天堂ハード(据置機ではN64)のソフトにおいては、主には金曜日という状態が2000年まで続きます。ただ流通の関係かソフト毎のばらつきがあり、木曜発売と金曜発売の両方が存在する状態だったようです。
ちなみに『ファミ通』、及びその前身の『ファミコン通信』はもともと金曜発売(月2刊→週刊化)でした。そして前述のようにゲームの発売日が木曜メインにシフトしてもまだ金曜のままでしたが、2009年8月20日より既に大半がそうであったゲームの発売日に合わせる形で、発売日が金曜日から木曜日に変更となりました。
ただコンシューマゲームソフトの発売日はこのように木曜メインとなりましたが、パソコンゲームは金曜発売がメインのまま現在まで続いています。そのために2000年代の秋葉原では、木曜と金曜の両方、店の前にソフトを購入するための行列が出来るというのが恒例になっていた時期がありました(パソコンのほうは言うまでもなくエロゲー)。まだメッセサンオーとかが存在していた時代です。
発売日が木曜日に変わった理由
さて、曜日をわざわざ変えた理由ですが、きっかけとなったSCEからは「リピート生産に対応するため」という説明がゲーム雑誌などでなされていました。
当時はスーファミ時代までのメインだったROM媒体からCD-ROMなど光学ディスク媒体へと移り変わりましたが、光学ディスク媒体はROM媒体と比較して時間的にも価格的にも生産がしやすいというメリットがありました。その利点を活用し、たとえそのソフトが即日完売してもすぐにリピート生産が出来て機会損失を起こさないようにすることが出来ると言われていました。つまり発売日を金曜ではなく木曜にすれば、たとえ発売日当日に品切れを起こしても、その日のうちに発注→在庫を再生産して土日に間に合うように出荷できる、そのため1日前倒しして木曜にした方がよい、ということでした。
木曜発売変更でのリピート効果はあったのか
では、そのリピート体勢がうまく働いたのか、ということになります。これについては各店舗、各メーカー、各ソフト毎で状況が違うので一概には言い切れない、と前置きをした上で自分の知っている範囲で語ると「う~ん……微妙」という感じでした。
ゲームの売り上げの大半は発売初週が大半を占めるというのはよく言われます。そして次週以降は他の新作の発売もあり、注目度も下がり、売り上げがグッと下がります(これはゲームのジャンルにもよりますが、たいていこのパターン)。そうなると多少足りなかったからといってもリピート発注してもすでに入荷時には「発売から間が開いてしまったソフト」になってしまい、在庫として残ってしまうリスクが高いわけで、わざわざ発注すること自体があまりなかったのがひとつ(その後そのシリーズの最新作が発売されたりなどのタイミングで再発注されるなどはあるかもしれませんが)。
それでも本当に発注後にすぐリピートが行われて再入荷できたとしたらそれは解消できたかもしれません。むしろ木曜発売もそれの改善を狙っての設定があったでしょう。しかし多くの場合理想通りにはなりませんでした。
メーカー側にとってみれば、たとえリピート生産が早く、安価に出来るとはいっても一枚単位で出来るわけではなく、当然一定の生産ロットは必要なわけです。初動で多少売れてもそこで再生産して余らせてしまってはせっかくの利益がなくなります。それに光学媒体は即時リピート生産できるとはいっても、それについてくる紙媒体である説明書は即時というわけにもいかない場合も多く、それなら前もって用意する必要がありますが、リピートが来るかどうか分からない状況でそこまでやるだけの財政的余裕がメーカーにあるとも限りません。つまりメーカー側がそのシステムに応えるだけの余力がなかったのが大きいでしょう。
故に実際は木曜に即時品切れでも再発注でその分生産してすぐ届くというケースはあまりなかったと思います。実際、初代『ガンパレード・マーチ』のように最初は目立たなかったものの徐々に人気が広まり、長期に渡って売れたというパターンのゲームも存在したのですが、リピート自体がなかなかなされなかったのか人気が広まっていった期間、わりと品切れだったという記憶があります。これも品切れになっても再生産がなかなか行われていなかったのかなと今になって思います。ただ、あらかじめ再生産の用意をしておけるような大メーカーのキラーソフトなど、売り上げ単位が圧倒的に違うソフトではリピートが行われ、効果を発揮した可能性もないとは言えませんが(もしかしたらもともとそういう大規模ソフトの為に作られたのかも)。
でも全体としては、それまでの初回発注数で売り上げの大半が決まってしまい、リピート自体が難しいという体制を解消できなかったと思っています。さらに現在ではソフトのほかにいろいろな付属品がつくものが多くなっているので、余計そうでしょう(もともと「初回限定版」と謳っているものも多いし)。
これからは発売曜日の概念が薄くなるのかも
ただ木曜発売になってもすでに10年以上経ち、最適化されている今ではさしたる不都合はないと思われます。結果として水曜に多い音楽CD、木曜のゲーム、そして金曜のPCソフト等と、同時に扱う店にとっては棲み分けができている感じもありますし。
ただ近年シェアを拡大しているダウンロード販売の場合、流通事情を気にせず制作元が自社の都合で曜日を決められるケースが多いので、このような曜日発売日の概念も昔より薄くなってきている感じはあります。それでもパッケージ版と歩調を合わせるためか、木曜発売が多いですが、ダウンロードがメインとなったらそのような発売日の曜日概念自体がさらに薄くなってゆくのかもしれません。