ちょっと前になりますが、『幻の未発売ゲームを追え! 今明かされる発売中止の謎』(天野譲二)という書籍を購入しました。
こちらは長年にわたりユーゲーやGAME SIDEなどに掲載されていたコーナーの記事をまとめたものに、書き下ろしを加えたものになります。
ここ近年、あらゆる分野で、未発表、未発売、発売禁止作品といった、『幻の作品』について採り上げる書籍が出て来ており、コンビニ本などでも売っています。それにはゲーム等も含まれていることもあるのですが、そういった所での定番とは違った切り口がおもしろかったので、今日はこれについて書いてゆきます。
定番ではないマイナーな未発売ゲームにも焦点
前述した、『幻のゲーム』系の書籍や記事では、だいたい定番があります。
代表的なところでは、テトリス権利問題にまつわる一連の騒動で発売出来なくなったメガドライブ版『テトリス』や、情報やイメージ画面は出たものの結局最後まで出なかったPCエンジンの『スペースファンタジーゾーン』、スーファミ発売表に最後まで残ったけど結局出なかった『ああっ女神さまっ』、そのままドリキャスに流れたためにサターン版『バーチャファイター3』、本来『バイオハザード2』として出る予定だったけど、開発中に白紙となった、通称バイオハザード1.5など。あとから出たけど一時期発売中止になったものとしては『MOTHER3』や『天外魔境3』なんかもありますね。
しかしこの本は、それらの「定番」の多くを外してきており、今まであまりほかでは採り上げられていなかった未発売のゲームについて触れられているものが多いです。掲載誌がコア向けだったので、マイナーなものを扱っても大丈夫なこともあったかもしれませんが、それ故に深く知りたい人には興味深く仕上がっています。
関係者のインタビューなど交え掘り下げている
ゲーム毎にページ数は異なり、記事と画面写真だけで構成されているものもありますが、多くの作品ではゲームの関係者に直接インタビューをして、どうして未発売になったのかや、それが開発された内情が語られ、なかなか深く切り込んでいる感じです。
たとえばミヤ王こと宮岡寛氏が語っている上、当時の設定資料集も出て来ている『メタルマックス3』(データイースト・PS)や『メタルマックス ワイルドアイズ』(アスキー・DC)、PS2初期に画面写真が話題になったけど、自然消滅した『電線(仮)』(SCE・PS2)、原作者許諾を取る前に見切り開発が行われていたという『銀河鉄道999』(日本テレネット・メガCD)など。『オフザーケン』(徳間書店・FC)は、キャラデザ矢野健太郎氏の新作マンガまで載っていたりします。
あと記事のものでも、PCエンジンでは有名な『モンスターメーカー ホーリーダガー』(NECインターチャネル・PCE)や、声優発掘イベントを行いながらゲームは出なかった『末廣商店街』(ワンダーファーム・Win)などがあります。最もマイナーなのは(というかこれを「未発売ゲーム」にカテゴライズ出来るかという謎もある)開発途中のROMが市場に流れたメーカー不詳の『大河内源五郎一家』なんてのも。
『猛虎伝説’95~阪神タイガース~』(エンジェル・SFC)というソフト(今回初めて知った)がありましたが、これの発売中止理由として考えられているものが、その同年の阪神の成績というのには、「ああ、そういうパターンもあるのだよなあ」と思ったり。
とりわけ印象深かったのは、広告は出たものの発売されなかった故飯野賢治氏の『リアルサウンド2』(ワープ・SS)や、同じく故人である堀部秀郎氏が携わった『斑霧』(インターチャネル・PS2)が載っていたこと。
あと、巻末企画として『センチメンタルグラフティ』の企画で全国各地で応援店となっていたゲームショップ(あったなあ、あの当時そういう企画いろいろ)が今どうなっているのかと、実際に2009年時点で現存した店舗に行って話を聞いていたのがおもしろかったです。
未発売の様々な理由
これを見ていると、未発売になるにあたっても、それぞれの事情があることが見られます。時期的なものからハードの流れ的なもの、開発の都合など。ただ、根本的にはほとんど「営業上の都合」になります。これはゲームが製品、しかも世に出すのにかなりの高コストを要するものである宿命でもあります。
もっとも、完全にそれらが無駄になったというものばかりではなく、そのゲームの一部が使われたりノウハウが生かされたであろうものもありますね。有名なところでは『バイオハザード1.5』が後の『鬼武者』に活用されたなど。
その後の同系列のゲームや、メーカーや開発者の作品などと照らし合わせると、また興味深いところが出て来ます。
未発売ゲームもゲーム史の一つの側面
あとがきを見ると、取材を申し込んでも全く返答がなかったり、おそらく大人の事情で掲載が出来なかったものもあるようです。まあたしかに未発売ってのはあからさまにしたいものじゃないからそうなるなと。しかしそれらの中から発掘して、かなりおもしろい材料をもってこれたところはかなりよいと思います。もうちょっと時代が進めば、過去の話としてもっといろいろな未発売ゲームについての情報が世に出てくるのでしょうか。
ゲーム史というと、華々しい売れたソフトばかり目立つものですが、こういった世に出なかったソフト、それはここにあるように開発していることでさえ表に出ないまま頓挫したソフトがたくさんある側面も見逃せないでしょう。だってそれは世に出たゲームの礎になったものかもしれないのですから。