任天堂法務部は無敵というわけではない

このようなエントリーがありました。

任天堂法務部 最強列伝

とてもわかりやすくまとまっています。

さて、昔から任天堂の法務部はディズニーと並んで無敵・最強みたいに言われてきました。それは、リンク先にもある「ポケモンユンゲラー裁判」「キングコング裁判」で、見事な逆転を演じたと語られてきたことからでしょう。

たしかに、任天堂法務部は優秀だと思います。そして会社の規模もあり、ゲームメーカーの中では最強かもしれません。しかしながら、「完全無敵」ではありません。任天堂でも裁判で訴えが通らないことは、過去何回かありました。そのうち報道などで判明しているものを書いてゆきます。

『ティアリングサーガ』裁判……著作権違反においては認められず

これは、『ファイアーエムブレム』の制作者であった加賀昭三氏が独立した際、エンターブレインから、『エムブレムサーガ』というゲームを発売することが発表されます。当時のFEファンは大いに期待しますが、任天堂からそれに対してクレームが入ります。その後『ティアリングサーガ』と名前を変更して発売されますが、任天堂はそれに対して、不正競争防止法違反と著作権侵害で提訴。

一審は任天堂が全面敗訴。控訴審では任天堂が不正競争防止法(この場合、「ティアリングサーガ」を「ファイアーエムブレム」の関連作品と錯誤させて宣伝したこと、具体的には予約キャンペーン)については認められますが、著作権違反においては棄却されます。つまり、半分しか勝っていないというわけです(それでもエンターブレインから約7600万円の賠償金は獲得しましたが)。そして任天堂側のみ行った上告は棄却されます。

差し止めも認められなかったようで、関連書籍、そして『ベルウィックサーガ』も後に発売となりました。

ちなみにこの後数年間、任天堂とファミ通の仲がそれまでと比べて微妙になった(長年あった裏表紙の独占広告がなくなったり)のは、微妙に感じられましたね(現在はそこまで険悪でもない様子)。

まあこれについては、ちょうどゲーム雑誌メディア以外の登場で、ゲーム会社の広告のあり方が問い直された時期と一致するので、必ずしもこれのせいとは言えませんが。

あと、ゼノギアスとゼノサーガ、タクティクスオウガとファイナルファンタジータクティクスのように、独立したゲームデザイナーが、元の会社で作っていたのと同ジャンルのゲームを作っても、内容に直接関係がなければ著作権的には問題がないと判例として確立したことは大きいかもしれません。

■参考:ファイアーエムブレム – Wikipedia

ちなみに著作権を争った裁判は、カプコンと今は亡きデータイーストの格闘ゲーム裁判(ストIIとファイターズヒストリー)などがあります(カプコンの取り下げで和解成立)。

Anascape社とのコントローラ裁判……賠償命令

任天堂、コントローラの特許侵害訴訟で2100万ドルの支払命令

米Anascape社が任天堂のコントローラに対しての特許侵害をしていると訴えた裁判。テキサス東部地区の地方裁判所で任天堂側に2100万ドルの支払命令が下ってしまいます。ただ、これは係争中であり、記事によるとテキサス東部地区の地方裁判所は『審理の早さと陪審が原告側に有利なことで知られ、他の地裁に比べ特許訴訟が多い』とのことなので、上級審で逆転する可能性はあると思います。

ドンキーコングプログラム裁判……和解

ドンキーコングのプログラムを担当した池上通信機が、契約不履行で訴えた裁判。ただ、これについては両者和解が成立しています(内容は不明)。
このように、任天堂でも完全無敵というわけではないのです。

負けない最良の方法は勝たない勝負には出ないこと

しかし、何故任天堂の法務のすごさは他にあります。それは「事前の準備が完璧なこと」と、「勝たない勝負には出ないこと」。

任天堂ぐらいの大会社なら、訴訟にあうのは必然です。しかし、出来るだけそれを回避するように動いています。例えば昔はゲームのしすぎによってコントローラーで手を痛めたという苦情が出たら、アメリカでは手袋を配布しましたし、Wiiリモコンでも、いち早くカバーを無償配布しました。つまり、訴訟に至らせない、もしくは訴えられても前にしてきた対応が完璧なので、弱点が少ないというわけなのですよね。これはキングコング裁判やテトリスの時も同じで、相手の契約を事細かに調べ、その穴をついて逆転したという部分があります。本当に強いのは、その事前対応だと感じます。

そういえば、2000年代の中古ゲーム違法裁判には、任天堂って名を連ねてなかったような。これも、先を見越していた?(もっとも、これはCESA中心のキャンペーンだったので、CESAから一定の距離を置いていた任天堂が名を連ねていなかっただけかもしれませんが)。

そもそも、万が一負ける訴えは、そもそも訴訟になる前に解決しているのではないかと。裁判で勝ち続けるための一番の秘訣は何か。それは「負ける勝負はしない」ことですから。だから、会社の場合、『逆転裁判』みたいに、現実の裁判で「無敵」というのは、必ずしも褒め言葉ではないかもしれません。だって、裁判になることで係争の手間やリクスを背負ってしまっているのですから。裁判というのはあくまで最終手段なのですから(そうでもない、言いがかりレベルのもありますけど。アメリカとかで特に)。

前述のティアリングサーガ裁判は、「ゲームの著作権」にほとんど判例がなく、格ゲーやら音ゲーやらでそれらが争われていた時期なので、そこで勝負に出たけど認められなかったということなのかもしれません。なので、もし今似たような問題が起こっても、また対応から違ってきたかもしれません。

『任天堂法務部は無敵というわけではない』へのコメント

  1. 名前:Runner's High! 投稿日:2008/08/11(月) 22:12:56 ID:b4d6d0be0

    任天堂法務部は別に最強じゃないよ列伝

    ○任天堂法務部 最強列伝 (from 東京のはじっこで愛を叫ぶ) ○はてなブックマーク > 任天堂法務部 最強列伝 あ~、絶賛コメントの嵐に水を差すつもりはないんですが、このまま「任天堂法務部は常勝無敗!」との誤ったイメージが定着してしまうのもどうかと思うので

  2. 名前:loderun 投稿日:2008/08/11(月) 22:49:07 ID:589fc6ab0

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    はじめまして。偶然、同じ日に同じテーマで記事を書かれているのを知り、TBさせていただきました。
    ビデオゲームにまつわる著作権の判例については、80年代のコピー基板問題を通じて、主に「プログラムの著作物」と「ゲーム映像の著作物」の二つの異なる著作権が存在するとされています。
    ただ、ティアリングサーガ裁判のように世界観やストーリーの類似まで踏み込むとなると、判断は極めて難しいでしょうね。
    最後に蛇足ですが、コナミの一連の音ゲー裁判で問われたのは、著作権ではなく特許権や実用新案権の侵害ではなかったかと思います。

  3. 名前:中杜カズサ 投稿日:2008/08/14(木) 08:51:10 ID:589fc6ab0

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    >loderunさん
    はじめまして。ブログ記事読ませていただきました。
    そういえば80年代の判例なんてのがありましたね。とはいってもあまり深く知らなかったので、参考になりました。
    著作権については、いくつか訴えはあったけど、ほとんどまるコピーでもない限り、認められていなかったような。でも、組長のパテントフリー発言じゃないですけど、業界もそれで成長した部分がありますしね。
    >コナミの一連の音ゲー裁判
    あ、そうですね。おそらく筐体のほうの意匠だったかな?