いきなりですが、大槻ケンヂの小説『新興宗教オモイデ教』の中で、主要登場人物の1人である中間の台詞として以下のようなものがあります。
『ええんとちゃいます、僕は耳ざわりな唄は大好きや、人を嫌な気分にさせるっちゅうのは、そんだけで存在感のある唄なんやないですか』
『新興宗教オモイデ教』自体もおもしろい小説なのですが、だいぶ前に読んだのにこの言葉はけっこう印象に残っています。
世の中、つまらない音楽というのはたくさんあります。しかしそういうものは「つまらない」という感情で終わってしまい、それ以上は人の感情を動かすことはありません。しかし嫌な気分にさせる唄とか音楽というのは、「愛の反対は憎しみではなく無関心」というよく言われるところのマザー=テレサの言葉じゃありませんが、マイナス方向であれ人に強い印象を与えるわけです(もちろん、BGMとかの場合意図的に印象に残らないように作ってある場合もあるので、そちらが劣っているとうわけではないので念のため)。
さて、ゲームミュージックですが、そういった音楽はかなり少ないと思われます。というのは、やはり不快にする音楽というのは需要も心地よいものに比べて相当低く、且つ使い方も難しいからでしょう。また不快に思わせるつもりでも、音楽の力が足りずにそこまで至らないものもあるかもしれません。
そんな中、私が個人的にものすごくそっち方面でインパクトを受けた、聴いただけで「うわあ」となるようなゲームのBGMもあります。今日はそんな、「その場で『不快』という印象を与える演出効果として抜群だったBGM」を、当時のゲームの思い出も交えつつちょっと紹介してゆきます。
『スプラッターハウス』
ナムコ・1988年・アーケード等。
1988年、当時POPだったりかわいかったりカッコイイゲームを出すイメージのナムコがいきなり出して来て「ナムコご乱心」といわれた(「ダンシングアイ」同様自分が勝手に言ってるだけかもしれないが)作品。ただ、そのインパクトを除いてもいろいろな部分で非常に優れた作品であり、現在でも根強い人気がありバーチャルコンソールでも出ています。
アクションとしてのおもしろさや難易度バランスにも人気がありますが、特に演出面はいろいろな「恐怖」を盛り上げるための工夫がこされています。例えばクリアしたと思って一息つこうとした瞬間に落ちてくるシャンデリア、静かな通路でいきなり鏡に映った自分が襲ってくる、ヒロインを助けたと思ったら……など。これらは当時人気だったホラー映画からアイディアを得ている部分もあるでしょうが、ゲームにこの概念を持ち込んだのはかなり最初のほうだったのでは。これらの演出は、あとのホラー系ゲームにも受け継がれている部分があると思われます。
一応閲覧注意でプレイ動画。
そして音楽もその恐怖や緊張感、焦りを盛り上げるためのものがいろいろと用意されているのですが、特に嫌な気分にさせるのが、5面の「ボディーイーター」という敵がいるところ(動画だと11分10秒あたり)。
この敵キャラ、内臓と蛇があわさったようなモンスターで、人によっては見ているだけで卒倒しそうなのに、且つそこの音楽がまるでその蛇がうねるような不快なものとして作られています。あまりの不快さに一刻も早く抜けたくなるのですが、このステージは強制スクロールなのでなかなか進まない、それに焦りながらプレイするというふうになっています。
ちなみにこれのプレイしている人を見ると(ボディーイーターの倒し方がそのほうがやりやすいのもありますが)たいてい画面前のほうにいって、一刻も早く抜け出すようなプレイをしていますね。ちなみに4面教会面の音楽などは非常に聴き入ってプレイに身が入るものだったり、ラストの音楽がアレだったりと、この落差がまた強い印象を残しています。
あとSEで、頭を斧で吹っ飛ばすときの効果音が「グザ」でも「ザク」でもなく「スコーン」を表現されていたことが、逆にリアル感があってゾクッとした記憶があります。
『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』
任天堂・1988年・ディスクシステム。
ディスクシステムの名作アドベンチャーなのですが、当時私は小学生だったので、このゲームはかなりトラウマでした、CMではゴールデンタイムに死体のゲーム画面が写るし(当時のCMのこういうのはわりと緩かった)。
で、このゲームの音楽は、全体としてドラマのような郷愁を帯びているものが多いのですが、ひとつ非常に耳障りなものがあります。それは予想通りというか、殺人現場のそれ(動画だと29分あたりだけど、ネタバレとか閲覧注意)。
ここでは高い音を連続して出すことで、まるで金切り声のような耳ざわり感を出しています。今だとなんてことない画面と音楽家もしれませんけど、当時小学生にはトラウマでした。ちなみにあとのほうで、もっと嫌なシーンで使われていたりもして、トラウマ倍増。
『戦場の狼』
カプコン・1986年・FC(アーケード版は1985年)。
『戦場の狼』はカプコンの名作として有名で、音楽もご存じの方が多いでしょう。ちなみに自分は友人が『魔界村』を買ったのでこっちを買いました。しかしこの頃はアーケードのスペックがまた伸びてきたころで、魔界村も戦場の狼もかなり差がでてきて、はじめて家庭用とアーケードの違いというのを認識しました(ちなみに当時は小学生でゲーセンに行けなかったので、プレイはもっぱらスーパーのゲームコーナーやおもちゃ屋の店頭だった)。
これ、ファミコン移植版では若干追加があり、隠し地下ステージがあるのですね。おそらく、アーケード版の完全再現は当時のファミコンではできなかったので、それを補うための追加なのかも。
で、プラスのところだとアイテムが置いてあるのですが、外れのところもあり、そこで流れる音楽が高音混じりでキツいうのですよ(下の動画だと10分ちょうどあたり)。おまけにさらにキツいことに蛇がウネウネしているとこもあったり。
まとめ
とりあえず思いつくとことではこんなところですね。レトロゲーが多いのは私の好みなので、最近のゲームでも聴いただけでそう思うくらい強い効果のある音楽は存在すると思います。
しかし案の定、ホラーとか事件とか戦争とか「死」の匂いのするものになりましたね。まあそれぐらい強いところじゃないと、音楽だけが浮いてしまうので当然かもしれません。
というわけで、もし最近のゲームでもそういった「不快な音楽」があれば、使われ方に注目してみたら、面白い発見があるかもしれません。