先日、『横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力』を購入しました。前にも書きましたが、これはゲーム&ウォッチやゲームボーイの開発者である横井軍平氏がご存命中にインタービューに答える形でまとめられた本で、一時期はプレミアまでつくほどだったのですが、この度再版されました。
十数年ぶりに読み直して改めて興味深いものが多く、一気に読んでしまいました。
さて、この本の横井軍平氏は、山内社長や宮本茂氏と同様任天堂を世界的企業に押し上げる大きな力となった人ですが、最後は任天堂を退社し、株式会社コトを設立されました。一般的な視点から見ると、会社を世界的企業にした功労者であり、その会社のトップクラスにいて地位も名声も得ていた人物がいきなり辞めるというのは、会社内で何か揉め事があったと受け取られても不思議ではないかもしれません(ましてやあまり早期退職や起業が盛んではなかった20年前ならば)。故に任天堂の退任については当時からバーチャルボーイの失敗のせいだとか言われていましたが(今でもそう言う人もいますが)、それは上記の本や、この前紹介した『ゲームの父・横井軍平伝 任天堂のDNAを創造した男』を読めば、違うとわかるはずです。
しかし振り返ってみると、ゲーム業界のクリエイターというのは、横井さんと同じような心境になっている人が多いのではないかとも思うのです。それは、それらクリエイターの仕事場であるゲーム業界、もっと言えばゲーム会社の構造からして。
現代におけるコンシューマゲームやアーケードゲームの開発は、一部の例外を除いては会社単位で行なわれます。それは、ゲーム制作は複数人が携わる共同作業であり、また会社形態ではないと資金が調達しにくいが故、長いゲームの歴史の中でそうなっていった感じですね。そして、約40年のゲームの歴史の中では成功して大きくなった会社、そしておもしろく、大きく売れたゲームを作り出した人が存在します。
成功したゲームを作った人は、当然会社内での立場は上がります。そして会社組織は多くの場合立場が上がれば、新しく入ってきた人を束ねる立場になることになります。時には経営の中核に携わるようになるかもしれません。
しかし、人を束ねる立場になるということは、ゲーム制作の場合、ゲームを具体的に「作る」という作業から離れることは多々あります。それは人間に与えられた時間が誰しも一日24時間である以上仕方がないことでしょう。
たしかに人を束ねることや経営も立派なゲームに関わる仕事ではありますが、クリエイターとしてゲームを作りたくてこの業界に入り、そして制作することを楽しみにしてきた人にしてみれば、それらの仕事よりもゲームを作りたい、と思っても不思議ではありません。しかし、環境や立場がそれを許さないようになります。
このように、ゲームのクリエイターというのは、よいもの、面白いものを作ると、かえってそのうち現場から離れなければいけなくなってしまうというジレンマみたいなものを抱えているのではないでしょうか。とはいっても、面白くなく、売れないものを作り続けたなら、もちろんその仕事自体が出来なくなります。すなわち多くの場合、ゲームクリエイターは自分の意思というよりは、会社ほか周りの状況によってその現場を離れなければいけないことが多いのではないかと。
そうなった時、更なる創作を望むクリエイターはどうなるか。その手段として「独立」があります。すなわち今までいた会社をやめて、新しくゲーム制作の出来る会社を作ったりするということ。もちろん経営者ともなる場合当然クリエイターに専念出来るわけではありませんが、自分の裁量で仕事が出来る幅が広がる可能性があるので、クリエイターとしてはたとえ手取りの収入が減ったとしても、それは魅力なのかもしれません。
しかし、困るのは主力のクリエイターをなくす会社ですね。故に、どのように有能なクリエイターを引き留めるかが課題になります。今までの一般的な企業ならそれは地位とか賃金になるのでしょうが、前述のように作ることにやりがいを求めるクリエイターは、それらよりも辞めることで得られる自由な立場を求めることが多くても不思議ではありません。ましてや、そういったクリエイターはある程度の金や名声を手に入れている場合もあるのですから。
さて、現代ではiPhoneが普及してきました。これはゲームとしては既存のゲームと別個のところにあると感じるので、今までのDSやPSPみたいなものを食うとは思いません。しかし、こういったアプリ系ゲームの強みは別のところにあります。それは少人数で、うまくやれば個人でもゲームが作れるというところ。今までは大きな会社に属していないとやりにくかったことを、そういった方面でやりがいを乱す人はそのうち増えてくるのかもしれません。
ただ、大きくなった会社もさすがにそういったことに気付いていないところは少ないでしょう。それが証拠に、昔からのクリエイターで大会社になった今でも、ちゃんともとの会社で活動をしている人も多いです。任天堂はもちろんコナミ、ナムコといった会社にも昔からのクリエイターは大勢いるわけですし。これからは、人をつなぎとめるためにゲーム会社がどう動いてるか、というのがゲーム開発的にもビジネス的にも注目点になってくるのではないでしょうか。
◆追記
今回書いたことと、微妙に関係することが書かれている感じの本。