最近PCゲームでは、発売前にムービーや体験版、主題歌などを発売に先駆けてWeb上で公開するということがよく行われています。一部はコンシューマゲームでもやっているところがありますね。特にエロゲーの類ではやるのが当たり前となっている感じもあり、出さないと注目されないどころか、マイナス方向で騒がれてしまうこともあるようです。それくらい、体験版やムービーの事前公開は、PCゲームの宣伝手段として当たり前になったということですね。
しかしながら当たり前のように行われているこの方法、実は「当たり前のような毎日が、実はとても貴重なものだったんだ」と泣きゲーのOPで言われそうなように、実はかなり恵まれた条件の上に成り立っており、そして「崩れるのは一瞬だった」になりかねないと思うのです。それは、この広報手段が会社だけでは成り立たず、多くの人の手に助けられているため。
このようなムービーや体験版は100MBを越えることは今や当たりまえになっています。となると、メーカーのサーバだけではこれを配布すること事実上不可能になっています。例えば200MBする体験版なら、単純計算で1000人DLしただけでも転送量は200GB。参考までに私の借りているサーバの一つの月の転送量目安は150GB。月額500円のレンタルサーバならもうそこでアウトです。
もうちょっと資金力の有る会社なら専用のサーバを持てたり上位プランのものを借りられるかもしれませんが、小さなブランドではそれは不可能。
で、そこで現在、力になっているのがミラーサーバ(配布支援サイト)。つまりそのデータをメーカーのサーバだけではなく、あちこちのサーバに分散して配布するという方法ですね。これは関連会社などの場合もありますが、かなり多くはユーザーの有志が無償でやってくれているという面があります。つまり、こういった協力によって、今のように大容量のムービーや体験版、時には大容量のパッチファイルを配布するということが可能となっています。
しかし、この状況がいつまでも続くとなると、そうとばかりは言えないのではないでしょうか。以下のようなニュースがあります。
■「ネットのヘビーユーザーに追加課金?」,総務省のネット中立懇が報告書を近日公開:ITpro
■ネットのヘビーユーザーへの帯域制限、本日業界団体がガイドライン発表へ – GIGAZINE
現在ネットにおいてはデータが増え、かなりの帯域を圧迫していると言われています。で、その負担各プロバイダにかかってくるということ。これの原因のひとつはファイル交換ソフト(あえてP2Pとは書かないことにしておきます。P2Pという技術自体は役に立つ面がいろいろあるので)と言われていますが、これはそういったものを使うヘビーユーザーを規制しようという話。
で、これ自体はかまわないのですが、現在、ファイル交換ソフト以外でも動画配信などデータ量の行き交いは増大し、相変わらず負担がかかっています。それがファイル交換ソフト規制だけでプロバイダの許容量に収まるならまだいいのですが、もしそれでもまだプロバイダに負担がかかる場合、それ以外のもの、つまり普通のダウンロードを規制及び追加課金してくる可能性もあります。
さて、そうなった時に、ミラーサーバを運営し続けてくれる有志は、どれだけいるでしょうか。さすがに、今でも管理などでコストがかかっているのに、ましてや従量制になりどれだけお金がかかるかわからなくなったとしたら、さすがに善意ではやってくれる状況ではなくなる可能性はあります。いや、メーカー自身もそれが不可能になる可能性はあります。
そうなった場合、今までのような体験版やムービー、そして重いパッチの配布方法はファイル交換ソフトかCD(DVD)での配布くらいでしょう。しかし違法ファイルが蔓延しているらしき現状のでは、どんなものであれ、ファイルが交換できるソフトに触れさせるようなことはしたくないというのがほとんどのメーカーの意見ではないかと。だと現実的にはCD(DVD)配布しかなくなりますが、それにはタイムラグが生じます。となるとコストもかかりますし、開発工程にも影響を与えるようにもなるのではないでしょうか。
何を況んやとすると、最初に書いた通りです。このダウンロードによる広報というのは、このように非常に恵まれた中で行われ、そしていつ崩れるかわからないということ。
それに帯域問題がなくても、ミラーサーバの人達が「やめた」と言ってしまえばそれで終わってしまいます。極端な例えで申し訳ないですが、ある土地にボランティアで行っている人を、そのボランティアを受けている人の多くは感謝しても、中にそれを「当たり前の権利」と思って、小間使いのようにする人が出てくることがあるという話を聞いたことがあります。そんな状況になってはいけないのではないかと。
何も体験版やムービーをやめろとか、ミラーサーバに頼るのはやめろというのではありません。ただ、このような善意と状況によって配布は行われているということは認識しておいたほうがよいのではないかと思うのですよね。そう考えていれば、その体勢を崩さないための方法を、次に考えておくことは出来ると思うので。
まあ、多くはメーカー側の問題ですが、ユーザー側でも分散DLとかをしてサーバに負担をかけないようにするとか、ちょっとしたことは出来るかと。