ニコニコがらみで話題があり、ゲーム音楽についても無関係ではないなと思ったので。
■「ニコニコ動画」でMADも削除 ドワンゴが権利者に申し入れ
ニコニコ動画では、MAD、すなわち既存コンテンツの素材(許諾されているものから黙認、無許諾までいろいろ)を切り取って、2次創作品としてアップロードされています。しかしこれ、著作権的にはかなりグレーゾーンなのですよね。いや、正確に言うと、著作権者が黙認しているホワイトに近いグレーから、著作権者が認めたくはないけど、手は出していないほどんどブラックよりなグレーゾーンまで。
今までニコニコ動画の削除手順は、著作権者に対応ツールを渡して、見つけたときにそれを申告、そこでニコニコ動画が判断し、削除されるという仕組みだったようです。そこの削除受付基準を、今までの丸アップロードからもっと厳しくするという感じでしょうか。
■参考:「SMILEVIDEO権利侵害対応プログラム」について ※リンク切れ
この問題、かなり複雑なのですよね。それは何が引っかかって、何がひっかからないか一概に判断できないので。まるまるアニメとかを使えばアウトでしょうが、二次創作の絵を使った場合はどうなるのとか、著作権者が黙認しているものだったらどうなるのとか、個別にケースが違うのですよね。
もちろん、著作権という法で定められている以上守るものだとは思いますが、これも非常に解釈が難しく、極論を言ってしまえば町の風景を写真に撮影しても、そこに看板が映っていれば、他人の著作物を使ったということでアウト、となる可能性も否定できません。よく、2ちゃんの書き込みを転載した場合の著作権などでも議論されますけど、そういった非常に複雑な状況の中に著作の権利というものは存在していると思います。
それでも、一般的に権利を著しく侵害するとされているもの、たとえばまるまるアニメとかアップロードしていたら、それは消されるのも当然だと思いますし、ゲーム音楽CDがまるまるアップロードされていると、これどうなのよ、と思う気持ちはあります(特にまだ発売しているもの)。
余談ですが、正直、ゲームのプレイ動画ってのもそれがセーフかアウトかという判断はかなり難しいのですよね。それはプレイをアップロードして、そのゲームを新しくプレイした時に面白さを損なうか、損なわないかというのがそのゲームごとによって違うので。たとえばストーリーを楽しむゲームだったらネタバレになりますし、そうではない名プレイものだったら、かえって自分もやりたくなるようなこともあります。ただ、それもすべての人によって異なるので、判断が難しいと(まあ、結局は著作権者がアウトといえばアウトになりそうですが)。自分もたまに載せますが、その基準は説明は難しいですが(おおざっぱに言えば、ネタバレ度合いが濃く、そこで満足してしまうような性質のものは載せないなど)、一応あります。
そうした曖昧な中に、このニコニコ動画というのも成立している点はあると思います。ただ、誰もが納得する解決策は導き出せず、それ故に議論が続いているのでしょう。とはいえ、グレーゾーンには明らかに黒のものも混じるため、本当の争いになった場合は著作権側が有利でしょう。それが故、著作権者の立場に応じたのが今回のニュースでしょう。
しかし、これには上のような法的理念とは別の、現実的な面において問題があると思うのですね。それは、このような規制によって、かえって著作権を侵害した動画、それはMADだけではなく、今は削除されているようなアニメなどのまるまるアップロードがまた流布してしまうという危険性です。
何故、そんな真逆のことが言えるのか。それは、ニコニコ動画やYouTubeだけが動画コンテンツではないからです。
前に、2ちゃんねるの管理人ひろゆき氏が『2ちゃんねるは何故潰れないのか』で書いていた、2ちゃんねるが潰れない理由として、もし、2ちゃんが潰れたなら、需要がある限り変わりのものが出てくる。それがもし、海外のサーバ(特に日本が影響の及びにくい国、ロシアや中国、北朝鮮など)に置かれた場合、国内の組織、団体は手出しが出来なくなる。しかし2ちゃんねるは削除のガイドラインに従えば消されるし、ログの提出も出来る分、(無秩序に見えても)手には負えるようになっているという感じ。これと同じことは、ニコニコ動画にも言えるのではないでしょうが。
つまり、あまりに削除基準を厳しくすることでニコニコ動画以外の動画配信コンテンツに移行されてしまう、という可能性は、多分にあるのではないでしょうか。そういえば、YouTubeに規制が入り始めたときに、出来たばかりのニコニコへ移った人が多かった気がしますが、その歴史が繰り返される感じでしょうか。
ニコニコの広告収入がどれだけか知りませんが、それがまるまる得られるコンテンツとなれば、この著作権問題をクリアできる、もしくはのらりくらりと逃れられるのであれば、そうする人が出てきてもおかしくありません。いや、悪い場合は、それが複数に分散して、著作権者の手間が今以上にかかるようになるということ。さらに最悪の場合、削除が殆ど不可能なP2P動画配信システムなんかが流行る可能性もあります。
となると、せっかく今、アニメの丸ごとアップロードは削除されるなど、ある程度の段取りは整っているのに、それをまた新しい場所で振り出しに戻してしまうという可能性は出てこないでしょうか。しかも、著作権意識の甘い国がサービスを始めたのでしたらなおさら対応が難しくなります。
たしかに著作権をかなり侵害しているものを消したいのはコンテンツを持っているものとしてもっともでしょうが、それは同時にこのような危険をはらんでいるとも言えるのではないかと。でも、それで消すなというと、結局違法なものが存在してしまうし……というジレンマがあるのですよね。ここらへん、著作権者にとっても非常に難しいところだと思います。
だけど、もしMADなどを規制してほしいのだったら、方法の一つとして、きちんとメーカーごとにガイドラインを定め、それをわかりやすい場所に公表するというのがあると思います。そうすれば、わざわざ嫌がっていル著作権者のものを使う人は少ないでしょうし、絶対とは言いませんが、多少の効果はあると思います(まあ、もしかしたらそれをしない、もしくは出来ない理由もあるとは思うのですが、また著作権法に食い込んで複雑になるので今日は割愛)。
ちなみに私の考えですが、MAD制作者の目的は別に権利を侵害しようとしているわけではなく、単純にいい素材が著作物だったと思うのですね。なら、多少認可素材を提供することで、範囲を限定することも出来るのではないかと(もちろんそのための広報は必要ですが)。
あと、これは素材、たとえば音楽やら画像やらを供給してもいい1次創作者(著作権者)が、フリー素材として公表しているものを、使用したい側が簡単に探せる仕組みなんてのを作っても面白そうだなと思います。
さて、これからネットでの動画文化はどうかわってゆくのでしょうか。