「1632143+P」
この文字列の意味がわかるでしょうか。文字の意味だけ分かった人は格闘ゲーマーか90年代にゲーセンによく行っていた人(もしくはインターネット以前からパソコンに詳しかった人)。これ自体が分かった人は確実に2D格ゲーマーです。
答えはこれ。
SNKの2D格闘ゲーム『餓狼伝説』シリーズのボス、ギース=ハワードの超必殺技、レイジングストームのコマンド。とはいっても若い人にはこの数字の意味自体がわからないという人もけっこういると思いますので、この数字コマンドが存在した当時、つまり90年代のゲーセンについて語ります。
1990年代の格ゲーブーム
『ストリートファイターII』が登場し、2D格闘ゲームブームの幕開けとなったのが1991年。この当時はインターネットは学術用途くらいでしか存在しておらず、携帯電話も今日の基準からすれば「携帯」とは言いづらい大きさのものでした。つまり通信が今に比べて相当限られたものだったのです。
しかし当時からメーカーが技表で公開していない「必殺技の隠しコマンド」というものは存在していました。当然ユーザーとしてはそれを使ってみたくなるのは当然ですが、自力で容易く発見出来るものではありません。当時は今よりもずっとコマンドが出しにくかったですし、それ以前に2D格闘ゲームも出始めで、そういったコマンドに対する推理をするのにも乏しかったことが大きいです。一定期間を経てば『ゲーメスト』などで公開されますが、雑誌の発行間隔は一ヶ月、それまで待ってられないのは当然の倫理でした。
もちろん口コミや古くから存在したゲーセンのコミュニケーションノートでそれらが研究されたり公開されましたが、情報の広がりは限定的であり一部に留まってしまいます。そのために強豪ゲーセンに遠征する人もいたようです(コミュニケーションノートについては、また別の機会に書きたいと思います)。
パソコン通信におけるコマンド情報
そこで活用されたのが、パソコン通信。インターネットのない時代、パソコンを使った新しい通信として注目を集め、当時パソコンも通信料金も高価であり、限定された環境でありつつもそこには情報を求める人が集いました。
その中にはアーケードゲーム、そして格ゲーに対するフォーラムも存在し、会話が交わされていました。これはパソコン通信をするギークと格闘ゲームをする層が重なっていたのも大きいでしょう。自分は当時通信を出来るパソコンを持っていなかったので、他人のを見たり伝聞だったりしたのですが、かなり盛り上がっていたといいます(余談:格ゲーに限らずパソ通時の体験的記憶ってインターネット上であまり残ってないので、リアルタイムで経験していた人はインターネット史のために書き留めて頂きたい)。
そこで発見されたコマンドについても当然明かされるのですが、当時の通信回線はインターネット初期の56Kどころかそれよりも低いくらいで、画像で伝えるのは不可能。そこで文字列を並べて説明するのですが、そこで利用されたのが236Pとか41236Kといった数字を用いたもの。
これはパソコンのテンキーで5を中心としてそこからの方向を説明するというもの。つまり236Pならば波動拳コマンドの下、右下、右+パンチとなります。
何故そんな数字を使ったか。これは斜め矢印が文字コードの関係で使えないというのが大きかったでしょう(今でも文字化けの可能性があって推奨されないような)。ただそれ以前からパソコンゲームにおいてはテンキーで方向操作をするというのが当たり前でしたし、そこからの文化として普通に使われていた可能性が大きいです。
通信の情報がゲーセンに
レトロなゲーセン / zenjiro
前述のようにパソコン通信自体は限られた人のものでしたが、そこから各ゲームセンターがその技表をプリントや手書きなどして、壁に貼り付けていることが多かったのです。自分もそこでテンキー文字列におけるコマンドを見て、非公開だった技を覚えたりしました。1990年代当時、ゲーセン巡りをしていたことがあるのですが、このパソ通からの技表をゲーセン文化はあちこちで見られました。たいていはコミュニケーションノートがある所の近くでしたね。貼ってないところでもコミュニケーションノートにその技を手書きで書いている人もいました。
インターネットが日本で幕を開けたと言える1996年からもしばらくの間はゲーセンでのテンキーコマンド表は貼ってありました。『バーチャファイター3』の頃までは確実にありました。ただ、その後はインターネットが発展したこと、それ以前に格ゲーブームが収束してきたことによりそのようなものは減ってゆきました。ゲーメストに月2回刊になってたし。あと、ある程度ユーザーのほうで慣れてきて、技を出すためのコマンドのアタリがつけられるようになってきたのも大きいと思います。
そして、パソコン通信自体もインターネットに押されどんどんサービスが終了し、最後まで残ったニフティサーブも2006年に終了。
今でも結構使えると思うテンキーコマンド説明
このように、今では検索一発で手に入るような情報も、インターネット普及以前はこうやって手間暇かけて手に入れていたというお話。ただ、その限られたが故に作られた仕組みの中ではなく、リアルから情報を探すという、今ではほとんどなくなってしまった面白さもあったのですけどね。
しかし今でも検索かけるとけっこうこの数字でコマンド説明ってのがあるのですよね。それは当時それらを経験した人が、今でも使い続けているのか。それとも当時を経験してない若い人にも格ゲーの文化として根付いているのか。
でもこのテンキーコマンドって、かなり簡略化されていて便利でもありますよね。TwitterやLINEなど短文で伝えるものが多くなってきている昨今、格ゲーやその大本のパソゲーに限らず今でも色々使えそうな感じはかなりします。