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品薄商法は本当に存在しているのか

 

昔からネット上でよく言われる「○○商法」のうちのひとつ、「品薄商法」。もちろんたいていは批判対象として使われます。しかし、これのポイントの一つとしては、「メーカー側が意図して品薄状態にしているかどうか」というのがあります。つまり偶然品薄になってしまったか、そうではないか。

商売において、普通は売れるだけ仕入れ、ちょうど行き渡るように売れるのが理想ですが、そこは人間が未来を予測出来ないようになかなかうまくいかないこともあり、どうしても仕入れ過多で在庫がダブ付いてしまうこと、そしてその逆に、仕入れが足りなく早期に品切れになってしまうこともあります。
後者の場合、客から見た場合は「品薄商法」と見られる可能性もありますが、実際はただの仕入れのミスであり、意図してのものではありませんね。この場合「商法」というのとはちょっと違うと思われます。

しかし、本当に残りのもの、すなわちメーカー側が意図して品薄状態にしていると思われるもの、すなわち需要に対して圧倒的に少ない供給しかなされない場合は、「商法」なのでしょうか。そして「品薄商法」というものは、一般にまかり通るほどに存在しているのでしょうか。

 

多くの場合は品薄にしたほうがリスクを伴う

いきなり結論から申しますと、私の考えでは「ないとは言わない。だけど品薄の原因のほとんどは意図的に「商法」としてやっているものではない」という感じです。

「品薄商法」にメリットがあるとすれば、「品不足を起こしてその商品の価値を上げ、売り上げを伸ばす」という点にあると思います。しかし逆に考えれば、「本来売れるはずだったところで機会損失を起こしている(もしくは起こす危険性がある)」ということでもあります。

そんな危険を冒してまでわざと品薄にする意義は何か。もしその製品が継続的に供給されるものの場合、価値を高めて本来一度に供給されるよりも長く、多く売れるようにするという目論見があるかもしれません。しかしそこだけでしか売られないもの、すなわち限定版などはどうでしょうか。結局販売面で見れば売り上げが伸びることなく、そこで止まってしまいますよね。ならそんな品薄にする意義はあるでしょうか。せいぜい次回「あそこは早く予約しなきゃ」と思われるくらいでしょう。だけど次に同じように入荷数を絞らなかったら、そこでその思考は止まってしまいます。かといってずっと絞れば儲けはそこ止まり。なんだか売り上げを伸ばすということに対してあまりいい方法ではないのではと思われます。
しかも、継続的販売を出来るものでもリスクは高すぎます。というのは手に入らないことで同時に「もういいや」と入手をあきらめられ、他の趣味に移る、もしくは用途に金を使われてしまう可能性も高いのですから。

あの『たまごっち』(初代)は、一時的には大ブームになりプレミアもつきましたが、その後製品の大量生産体制が整って投入する頃にはブームは収束し、結果大量の在庫をかかえて会社が傾きかけたという話までありますよね。

 

小売店は品薄商法(出荷絞り)を嫌う

そしてもうひとつ「品薄商法」を行うとすると大きな問題があります。それは小売店に嫌われるということ。

商品の仕入担当をする人にしてみれば、注文した製品が余りまくってワゴンに行くというのは困りものでしょう。しかし、(仕入担当経験があるわけではないので断言は出来ませんが)これと同じくらい困るのが「注文したより入荷が少なくて、結果足りなくなってしまう」という現象だと思います。「まあたしかに本来得られる利益を入れられないけど、損はしてないじゃん」と思う人もいるでしょうが、ことはそう簡単ではないです。

あるものを発売日に買いに行ってそれがなかった時、もしくは予約できなかった時、客としてその店に持つ印象はどうでしょうか。「品揃えの悪い店」というレッテルを貼ってしまうのではないかと。これが自分の発注ミスで少なかったのなら責任は自分にあるからまだいいでしょう。しかし入荷数が少ないということは、こういった客と向き合う店にまで影響を与えるのではないでしょうか。必ずしも全員が「その商品は受注数が少ない」と知っているわけではないのですから。
いや、これはまだましなほうで、下手をするとその入荷数の少なさ故その予約を断らざるを得ないという店の信用問題をそこねかねない事態も起きかねません。

そのメーカーが人気があればまだいいでしょう。しかしいったんそれが衰え、出荷調整する余裕がなくなった場合、仕入れ担当者はどう思うでしょうか……

 

せつなさ大爆発な思い出

余談ですがこんな話があります。セガサターンの時代あるギャルゲーの企画が大々的に行われ、それのプレビューディスクにも人気が集まり、予約が殺到しました。しかし、なんとそれが実際に店に配分された数は発注数の1割程度(私が聞いた店の人の話なので、全国ではわかりませんが)。

そのディスクはプレミア化します。そして本編にも注目が集まりますが、プレビューがこれじゃあ本編の発注もカットされるだろうと、多くの店では見込みで多め発注が行われました。しかし実際は10割、つまり発注数全部が納品されるという状態に。しかもそのソフトは発売後は発売前より厳しい評価を受けることになってしまいます。本来の仕入れ数以上のものを入荷してしまったのに、売れ行きは伸びなかった結果、そのソフトはワゴン行きとなりました。そして、店はそのタイトルに対して警戒するようになり、続編では発注数を抑えることになったといいます。これが悪意で行われたかどうかはわかりませんが、少なくとも結果はこうなってしまったという感じ。

 

品薄商法はハイリスクハイリターン

そんなわけで「品薄商法」なんてものをやるには、リスクのわりにはリターンがなさすぎるのです。でもなんでそれでも品薄は起こるのでしょうか。それは最初の定義における材料不足などによる製造が不可能だった場合というのもあります。しかし同時に、「作れるけど市場の状況からそうせざるを得ない場合」というのもあります。それは「製造資金がない」「もし少しでも余らせたらまずい場合」(製造コストや在庫保管場所の問題)、「ここで余らせたら店が発注してくれなくなるので少なめにするしかない」など様々。出来れば全部のユーザーに行き渡らせたいと思っても、そうしなければいけないことというのはあるのですね。
再販制度があって、売れなかったらいっぺんにものが返ってくる本は尚更でしょう。

もっとも、需要に対しての供給を適正にできなかったという点に関しては、その会社に落ち度がないとは言えませんが、必ずしも全部が全部売り上げを増すための悪意があるわけではないと考えます。
もし、上のようなやむを得ない場合も品薄商法の範疇から外れるなら、品薄商法なんてものは現在ではごくごく少数だと思うのです。ゲームにせよアニメにせよ限定本(再販対象外)にせよ、今じゃあそんな余裕のある会社は少なくて、一本でも多く売らないと会社潰れそうなところが多いですし。

結局のところは買い手が市場の価値に騙されないでほしいものを手に入れるようになれば、残った悪意も消えるのではないでしょうか。まあそれが出来れば苦労はしませんけどね。

※2014/8/27加筆修正しました。

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