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ゲームムービーの歴史、その隆盛と潜在化

ゲームが光ディスク媒体に移行した後、ムービーというものはゲームの多くで使われてきました。

理由は『ゲームにおける目立つ技術と目立たない技術~ムービーとロード時間』のエントリーで書いたように、「綺麗で目立つ」「アピールしやすい(店やユーザーだけではなく、場合によってはその会社の上司とかにも)」ってのが主な理由で、他にも「プログラマでなく、全く別のムービー制作者に仕事を振れる(プログラマの負担を増やさない)」といったものもあると思います。

 

ここでちょっと、コンシューマゲームにおけるムービーの歴史を振り返ってみましょう。

おそらく最初はPS、SS、3DOが出た直後だったでしょう。例としては『Dの食卓』などがあります。

しかし、『ファイナルファンタジーVII』においてそれは大きな躍進を遂げました。

それまでは、せいぜいアニメを動かす程度がムービーでありましたが、CGグラフィックという、当時としては新鮮で綺麗なものがゲーム内で動いた衝撃はかなりのものでした。

 

それ以降、PSでは『鉄拳』『グランツーリスモ』『風のクロノア』など、CGによるムービーが盛んになってきました。これらの大メーカーだけではなく、小さなメーカーでもオープニングだけはムービーを入れるということがほぼ当たり前のようになってましたね。

しかしPS対抗機であるサターンは、動画再生をソフトウェア、もしくは外部拡張カード(ムービーカード)に頼るものとなっていたため遅れをとってしまいます。しかも最初の圧縮コーデックであるCinepak(今でもAdobe Premire動画変換時の選択項目の一つでたまに見ますけど)による圧縮が、今と比べるとあまり有能なものではなく、そのため全画面表示するとブロックノイズが出まくっていました。

そのために『LUNAR』のサターン版で最初に出たものは、ムービーが画面サイズより小さくなっていますが、後に前述のムービーカードを使用したMPEG版というのが出て、そこではムービーがMPEGのフル画像になっています。

しかし当時、せっかく現在では主流となるMPEGに目をつけていたのにもったいない……ムービーカードの機能を最初から本体に内蔵していれば、歴史は変わっていたかも。まあコスト的に無理だったでしょうが(ムービーカードは価格が1万以上したはず)。

ちなみにPSは、ハード内にJPEGデコーダを内蔵し、高画質なMotion JPEGで動画を再生できたため、前述のような全画面でも綺麗な動画が可能だったのです。ですので、FF7はサターンでは技術的に出せなかったのでしょう。

ムービー再生力では遅れをとってしまったサターンは、大きな売りの一つをなくしてしまいます。もっとも、『グランディア』『ナイツ』等に使われたTrueMotionや、CRIが開発してドリキャスにも使われた「ADX」という素晴らしい技術はあるのですが、いかんせん手遅れでしたね)

※追記……正確には「ADX」を使った「CRI Sofdec」でした。

それだけが原因ではありませんが、そのうち市場的にはPSの天下となりました。

ちなみにこの時代まではいくら大容量といってもCD-ROMの640MBという制限がありましたので、まともに無圧縮の動画を放り込んだらすぐに埋まってしまいます。ですのでどれだけ綺麗なまま圧縮できるかが鍵だったのでしょう。

 

PS2、そしてDCの時代になると、容量がはるかに大きくなった上に圧縮技術も拡大されたために、それらの技術的な壁がほぼなくなり、ほとんど作ったムービーをそのまま出せるようになりました。故にこれらの技術は開発側にしか見えないものとなりました。

こうして当たり前になったムービー、しかしそこからがムービーにとって、そして場合によるとゲーム業界にとってここからが悲劇の始まりだったように思えます。

PS2時代中期以降になると、もう綺麗なムービーはみんな見飽きてしまっていた感がありました。

それは何もゲームだけではなく、CGが見られるパソコンが一般的になり、映画やテレビでもそれらのCGを多用されるようになったのが大きいです。それこそPS2時代によく言われたムービー多用のゲームへの文句、「ムービーが見たいなら映画館に行く」というものですね。

こうなったら、それまでのようなムービーを出してもあまり売りにはなりません。当たり前にあるものですから。それでもムービーにこだわるならより目立つムービーが必要になるわけです。といってもほとんどの場合それは「より綺麗なムービーで見栄えをよくする」しかないでしょう。(実は見せ方を変えるとかいろいろ手の入れようはあるのですが、その工夫よりも前者のほうが思いつくのは簡単ですので)

 

ここで起きたのは「ムービーのインフレ」。つまりもうFFクラスのような他社を圧倒するものすごく綺麗なムービーでもない限り、せっかくムービーを用意しても目立たなくなってしまうという現象でした。

はっきり言うと、綺麗なムービーを作るのは個々のセンスもありますが、金と時間のほうが大きいと思います。

CGというものは、綺麗にしようと思えば手をかけることでいくらでも綺麗になります。例えばキャラの後ろで多くの鳥が飛び立つシーンなんか出せば見栄えはいいですが、1羽ごとに作る必要があるので、とんでもない手間になります。

しかし、個人の動ける量に限界があるので時間がかかります。ですので、それを多くの人間に分散させて作業することになりますが、その分人件費がかかります。

 

そんなわけで、金も時間もないメーカーは、もうそういったムービーを作ること自体意味がなくなってきてしまったわけです。

というわけで、現在ムービーは一部の例外(FFなど)を除いて、あって当たり前、別になくてもよく、多くの人にとってはセールスポイントにならないと思ってしまう段階になっていると思います。

 

それでは今後、ムービーはなくなってゆくのでしょうか?いや、「その製品の売りとなるムービー」というものはなくなっても、まだ可能性は残されていると思います。それは、ゲーム内での気づかれないところでの活用というものです。

今後、ゲーム機の向上に伴ってムービーと変わりないキャラがフィールドを動き回るという光景は見られることでしょう。そこで、ユーザーが操作しない部分で密かにムービーをそのCGキャラと同じ画質で忍ばせて、プログラム上では無理な動きをさもそのキャラがそのまましているというふうに見せる、という感じです。

今まではゲーム画面とムービーの差異が激しかったので、これをやるとどうしても不自然な断絶が生じました。

経験ありませんか?キャラの登場シーンだけいきなりムービーになってなんか不自然な切れ目になってしまっていたということが。だけど、現在ならば通常画面とムービーに差異があまりないので、こうして演出に使用することは十分可能です。

先日発売された『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』なんかでも、ムービーを使っているみたいですが、それをほとんど気にしない作りになっていましたし。

 

ちなみにこの潜在的な利用、昔にもありました。例えばスーファミにおける拡大縮小なんていうのもそうで、スーファミ出たての頃は、無意味に拡大縮小をするソフトがやけに多かったですが、次第に落ち着いて、効果的な場面でのみ使われるようになりました。これはソフト面における「枯れた技術の水平思考」と言えるでしょう。

しかしそのうち「ねえ、ゲームでムービーって使われてるの?」「ほら、ええと……ここで使われているよ」「わあ、気づかなかった」なんてマニアックな子供と大人が会話する時代も来るかもしれませんね。

 

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